見わたすかぎり広がる緑の大草原、モンゴル。 今から10年前、少年バートルの住む青族の村と、少女ツェツェグがいる赤族の村が戦争をして、たくさんの人々が傷つき亡くなりました。少年バートルの父は足を負傷し、少女ツェツェグの父は戦死しました。それ以来2つの村は仲違いしてしまいました。バートルもツェツェグも村同士が早く仲良くなって平和に暮らせることを心から願っています。 ある日、少年バートルは仲違いしている赤族の村まで羊を追い、うっかり眠ってしまって、草原が赤と青の炎で焼け、落馬したこわい夢を見ました。「村祭りナーダムの競馬で1番になるため、もっと馬のことをお父さんに教えてもらいたい」と、赤族の仲良し少女ツェツェグに話すと、ツェツェグは「お父さんが生きているバートルが羨ましい」、父の形見「シャガイ」のペンダントを少年バートルに「これをつけていればきっと1番になれますわ」とあげました。 家に帰ったバートルは、父から「昔、黄金色に染まった草原を焼き払った火事を、白馬の王子が消した。王子は必ず村に帰ってくる。この王子こそ正義の人、勇気の人。その時お前は王子と一緒に馬で走るんだ」と聞かされました。 翌朝、バートルがいつものように、羊を連れて出かけようと家の外に出た時の事です。花の香のような、不思議な強い香がただよってきて、丘の上に真っ白い馬が大陽に輝いて現れました。人間のように話かける白い馬はトヤーと名乗り、「心のきれいなバートル少年の願いを、かなえてあげたい。10年前を時間旅行しよう」と、時間を飛び越えて、着いたところが草原の丘の上、ちょうど、青族と赤族の兵士がにらみ合い、明日にも戦いが始まろうとしています。 何とかして戦争を止めなければなりません。青族や赤族の兵士に話をしましたが、なかなかとりあってくれません。この時一緒にいた白馬トヤーがひと鳴きすると、満天の星空から白い雪が降り、その雪が無数の白い馬に変わっていきました。 このトヤーの仲間の馬を青族と赤族の村にあげました。地上には白馬の群れ、両方の陣地には煙が立ち、太鼓も鳴りだし、いよいよ戦争が始まりました。青族も赤族も、バートルがあげた白馬に乗って、相手をめがけて走り始めました。兵士達の声、地面を駆ける白馬の足音が草原をこだまします。白馬トヤーに乗ったバートルは目にも止まらぬ速さで、両軍の中を駆け抜けていきました。両軍の兵士達が、今にもぶつかりそうになったときのことです。兵士を乗せた白馬が一斉にジャンプしたのです。兵士達の両側を、虹のような雪のつぶが、凄い勢いで飛び、霧がたちこめると武器を投げ出した大勢の兵士達が倒れていました。それは10年前の自分たちの姿でした。白馬トヤーの魔力で、戦争があった次の日に時間旅行したのです。 青族や赤族の王様が両方の村の惨状を見て戦争の愚かさに気付き、草原を焦がした炎も消し止められました。これから新しい平和な村造りをするため、王様を競馬で決めようとレースが姶まりました。しかし、2人の王様に大きく引き離されたバートルは「どちらの王様が勝ってもまた争いが起きる。僕が勝たなくては。村人のため、平和のために」ツェツェグがくれた「シャガイ」のベンダンを握りしめ、白馬トヤーに乗って光のような速さで駆け抜け、ついにバートルは2人の王様を追い抜きゴールイン。 「君が新しい王だ」しかし、バートルは断りました。「仲直りをして二度と戦争をしないと誓って下さい」二人の王様は、大勢の兵士達の前で平和を誓いました。それを見届けバートルと白馬トヤーは「時間流行」をして再び10年後の元の世界に戻りました。 あの戦争が起きそうになった時やって来たのはバートル。伝説の「白馬の王子」は君の事だったんだね。平和が甦った村の人々の表情は明るく輝いています。「お父さん、今年のお祭りナーダムの競馬ではきっと1番になって見せる。僕はお父さんと走るのが夢なんだ」二人は緑の大草原に向かってどこまでも、どこまでも走って行きました。 |